なぜ透過は怖いのか。経皮吸収のメカニズム
-前編- 透過と経皮吸収の基礎
コラム「なぜ手袋を通り抜ける?透過のメカニズム」で、手袋に付着した化学物質は、目に見えない分子レベルで手袋を透過して、内側に入ってきて、手に触れる、ということを説明しました。
では、透過してきた化学物質が手に触れるとどうなるのでしょうか。
目次
目に見えないほど微量なら、手に触れても問題ないのでは?と思われるかもしれません。
しかし実際にはそんな微量であったとしても皮膚障害や健康障害を引き起こす恐れがあるのです。
化学物質の経皮吸収
手に触れた化学物質は、皮膚から体内に吸収されると言われています。これを「経皮吸収」と言います。
身近な例で考えてみましょう。
- 湿布薬
肩こりや筋肉痛のとき、痛む場所に貼ると薬効成分が皮膚を通って筋肉や血管に届き、炎症を抑えます。

- 化粧水や美容液
「角質層まで浸透」というフレーズを耳にしたことがあると思いますが、これも経皮吸収の一種です。
保湿成分を皮膚の隙間に染み込ませています。

皮膚から吸収されるのが、体にいい成分だけならよいのですが、有害な物質も同じように入り込んできます。
では、化学物質は皮膚からどのようにして入り込んでくるのでしょうか。
皮膚のバリア機能
そもそも皮膚自体には優れたバリア機能が備わっています。皮膚は大きく分けて3つの層が重なってできています。
表皮
一番外側の層。表皮の表面は「角質層」で覆われています。
真皮
コラーゲンなどでできた厚い層。この中を毛細血管が走っています。
皮下組織
一番奥にある、脂肪がメインのクッション層です。
このうち、様々な外界からの異物(化学物質、細菌、ハウスダストなど)の侵入を防いでくれているのが、表皮の「角質層」です。

角質層の中身
皮脂膜
角質層の表面には、皮脂腺から脂肪分が分泌されて皮脂膜が形成されています。さらに細かく見ていくと、その皮脂膜は、皮脂腺から分泌される脂質(油)と汗腺から出る汗(水)が混ざり合っています。まるで天然の乳化クリームのような状態になっています。
細胞間脂質
角質層は、角質細胞とよばれる細胞がレンガのように何層も積み重なってできています。
レンガを積み重ねるとき、その隙間を埋めるためにセメントが使われますが、積み重なった角質細胞の隙間も細胞間脂質というもので埋め尽くされています。
この細胞間脂質は、水と油が交互に重なったサンドイッチのような構造となっています。
これら、油と水で作られた皮脂膜や細胞間脂質により、水に溶けやすい物質も、油に溶けやすい物質も、簡単には通り抜けられないようになっているのです。
では安心か、というとそうではありません。
あくまで「簡単には」通り抜けられないだけで、条件によっては通り抜けてしまうことがあります。
化学物質が体内に「吸収」される仕組み
皮膚からの化学物質の吸収のルートには大きく3つの道があります。
※これらは同時に起こることもあり、物質によって主な経路が異なります。
・毛穴や汗を出す穴から直接入り込むパターン(①付属器官経路)
・角質細胞間(細胞間脂質部分)を縫うように進むパターン(②細胞間隙経路)
・細胞の中を突き進むパターン(③細胞実質透過経路)

吸収されやすくなる条件
物質の性質
バリア層は水と油でできていると書きましたが、多くは油分(脂質)からなっています。そのため、多くの有機溶剤など、脂に溶けやすい物質は通り抜けやすいとされています。また分子のサイズがとても小さい物質も、通り抜けやすい性質があるとされています。
皮膚のダメージ
ケガをしていたり、荒れていたりすると、つまりバリア機能が低下していると、化学物質が入り込みやすくなります。乾燥しやすい季節には保湿クリームを塗るなどして少しでもバリア機能を低下させないようにしましょう。
水分
お風呂で指がふやけるように、皮膚が長時間濡れた状態になると、バリアが緩んで水に溶けやすい物質も入り込みやすくなります。手袋をつけると手汗でムレる、という経験をされた方も多いと思いますが、バリア機能が低下している状態ですので気を付けなければなりません。
まとめ
皮膚にはバリア機能があるものの、条件によっては化学物質が通過し、皮膚に到達する可能性があります。
では、その「皮膚に到達した化学物質」は、その後どのような影響を及ぼすのでしょうか。
後編では、経皮吸収によって体内で起こることと、実際の健康リスクについて解説します。